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PXPublic service transformation

PX Public service transformation

監修:城山英明 (東京大学公共政策大学院・大学院法学政治学研究科・未来ビジョン研究センター教授)

 オープンガバナンス推進のための公共サービストランスフォーメーション(PX)講座教材シリーズは、実務家が中心となり、デジタル技術の発展に触発された現代の新しい政策形成過程やそこで用いられる手法を可視化しようとする試みである。この新しい政策形成過程にはいくつかの特色がある。

 第1に、市民中心主義が掲げられている。これは、新公共管理などでも主張されているユーザー志向の1つの表現でもある。同時に、市民という概念を用いるのは、単なるユーザーとしてだけではなく、公共サービスの担い手としての役割を期待していることを示している。また、市民中心主義における市民の多義性にも注意する必要がある。ここで念頭に置かれているのは抽象的な市民ではなく、具体的な文脈に置かれているステークホルダーとしての市民である。従って、公共サービスの受給者、サービス提供の担い手、納税者等々といった多様な姿を持つ具体的市民を踏まえた政策形成過程が求められることになる。

 第2に、デザイン思考に関する複数の章があることからもわかるように、デザイン思考が重要な背景となっている。ここでは、ユーザーあるいは市民の具体的経験を基礎に、公共サービスの設計を行うことが必要とされる。その際、公共サービス設計の選択肢を包括的に提示した上で総合的な観点から一度に評価するのではなく、公共サービスの具体的なプロトタイプを作成した上で、実験的実践に行い、修正を積み重ねていくという反復的なプロセスが重視される。具体的なプロトタイプを作成し、修正していく際には、実施可能性を踏まえた事業モデルの検討も必要になる。また、このような活動は、いわゆるサービスデザインと呼ばれるようなデザインの下流段階、すなわち具体的なサービスデザインの段階で求められるだけではなく、スペキュラティブデザインとも呼ばれるような価値に関わるデザインの上流段階でもクリエイテイブ思考に関する章で論じられているように重要になる。

 第3に、このような新しい政策形成過程は、デジタル技術の活用が契機となって実践されてきた。デジタル技術の活用は距離という制約を超えたコミュニケーションを可能にした。もちろん、適度な糊代を持つ対面のコミュニケーションの重要性がなくなるわけではく、また、デジタル技術の活用に対応した人間関係の作法の重要性がより増した面もあるが、デジタル技術が新たな可能性をもたらしたことも事実である。また、デジタル技術の活用により大量のデータの処理と分析を行うことが可能になり、いわゆるエビデンスに基づく政策形成が可能とした。このようなデータに基づく政策案の提示が重要となる。他方、当然のことながら、基礎となるデータセットには大量とはいえ制約やバイアスが埋め込まれており、これらの限界を踏まえた上でエビデンスを活用する構想力が求められる。

 このような新しい政策形成過程や手法は、定型的なものではなく、現場において日々試みられ、成長しているものである。その意味では、このオープンガバナンス推進のための公共サービストランスフォーメーション(PX)講座教材シリーズ自体が、一つのプロトタイプとして実験的に活用され、反復的なプロセスの中で継続的に改善されていくことが期待される。

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