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地域アゴラLocal agora

地域アゴラ Local agora

いのち輝き照らしあう対話空間

―地域アゴラ実験室&トークショー ―

2025年大阪・関西万博

「いのち輝く」から「いのち輝き照らしあう」へ!
ここでは個人の体験から出発し、参加者が肩書きを脱いで素の自分として出会う場。
多様な人々が対等に向き合うことで、互いのいのちを輝かせあう関係性が生まれます。
この過程で「信頼」と「新たなコミュニティ=地域アゴラ」の地平を体験的に探りました。

(対話空間実績:スチュワード1名を含む 対話1-3では現場での声かけを含む)

スケジュール

13時~13時45分(対話-1)6人
14時~14時45分(対話-2)8人
15時~15時45分(対話-3)7人
16時~17時(識者トークショー:民主主義って何でしたっけ?)5人


基本情報

開催日時 2025/10/05 (日) 13:00 ~ 17:00 (13:00 開場)
会場 エンパワーリングゾーン フェスティバル・ステーション
談論風発の結論は「民主主義」の主義を取りたい!あたり前のことをみんなでホンネで楽しく進められればデモクラシー(民主政=七五調で読むと「たみがあるじのまつりごと」)はついてくる!でした。

私たちが今始めるべきなのは、難しい顔で「民主主義を実践しよう」と構えることではありません。そうではなく、まずは自分たちの地域やコミュニティで、理屈抜きで「楽しい」と思える共通体験を創り出すことです。それが三宮と元町の線引きの綱引きでも、あるいは焚き火でも、一緒の食事でも構いません。

共に体を動かし、笑い合い、時には弱さを見せ合いながらホンネでつながりを育む。そうした人間的な営みを重ねていく中で、ごく自然に「自分たちのことは、自分たちで決めていきたい」という想いが芽生えてきます。その時、私たちの営みは振り返ってみれば「民主的」であった、と呼べるようになるのです。民主主義は、理屈や義務感から始めるのではなく、楽しさと、身近な人への思いやりの中から自然に立ち現れてくる—それこそが、この「地域アゴラ」が示した最も希望に満ちた結論でした。
(発起人奥村によるひとまずの要約です ご寛恕ください)


以下は当日の実験室の現場対話にご協力いただいた方へのお持ち帰り用パンフレットです。

🌱 地域アゴラのエッセンス

地域アゴラとは、「素の自分」で向き合える、新しい地域コミュニティの形です。

🎯 3つの基本原則

① 素の自分になる:肩書や役割という「鎧」を脱ぐ
② 本音で課題を見つめる:空気を読まず、本質を読む
③ 課題当事者になってみる:評論家から「自分ごと」の実践者へ

組織の形: 5〜7人の小グループ(アメーバ)が自律的に活動。リーダーは固定せず、スチュワード(世話役)を持ち回り。目的に応じて分裂・融合・消滅する、しなやかな生態系。

目指すもの: 孤立した個人ではなく、関係性の中で生きる市民へ。「誰かが何とかすべき」から「自分たちで何とかする」へ。対話と実践で、地域を、小さなつながりから変えていく。言いっぱなしではなく、関係性を紡ぐ実践民主主義へ。

第1章:地域アゴラとは - 基本概念

1. なぜ今、地域アゴラが必要なのか

地域コミュニティ崩壊の深刻な現実

現代社会では、地域のつながりの希薄化が様々な深刻な問題を引き起こしています。

これらの問題は一見バラバラに見えますが、すべて「素の自分どうしの信頼関係に根差した社会的なつながりの欠如・希薄化」に行き着きます。

具体的には:

  • 命に関わる問題: 災害時の孤立死、孤独死、児童虐待
  • 日常の困りごと: ゴミ出し、買い物、子どもの見守り
  • 地域の衰退: 商店街・公共交通の縮小、担い手不足
  • 心の問題: 孤育て、メンタルヘルス悪化、相談相手の不在

📋 より詳しい課題リストはこちらをご覧ください

地域アゴラが提供する解決策

例1:「孤育て」を、地域の「輪育て」に

今、多くの親がたった一人で子育ての重圧と向き合っています。本来、子どもは社会の宝であり、地域全体で育んでいくものです。

地域アゴラは、子育ての悩みを「うちも同じだよ」と笑いあえる場所。大変な時に「手伝おうか?」と自然に声がかかる場所。子どもたちが親以外にも信頼できる大人と出会える場所です。

例2:ひとりを楽しみ、地域とつながる生き方

ひとりでいる時間は、自由で、豊かで、かけがえのないものです。でも、「たまには誰かと食卓を囲みたい」「いざという時、少し頼れる人がいたら」。そう思う瞬間はありませんか?

過干渉な関係はいらない。でも、社会から孤立はしたくない。

地域アゴラは、そんな現代の「お一人さま」のための、新しいコミュニティの形です。

2. 地域アゴラの核心的価値

「素の自分」でいられる場所

地域アゴラの最大の特徴は、肩書や役割という「鎧」を脱いで、一人の人間として向き合える場であることです。

「素の自分」とは、具体的にどういうことでしょうか?

例1: 会社員Aさんの場合

職場では「営業部長」として部下に指示を出す立場。でも地域アゴラでは、その肩書を脇に置いて「子育てに悩む一人の親」として本音で語ります。部下の前では見せられない弱さも、ここでは安心して話せます。

例2: 自治会長Bさんの場合

町内では「まとめ役」として意見を調整し、いつも公平でいなければならない立場。でも地域アゴラでは、その役割を降りて「実は孤独を感じている一人の高齢者」として参加します。

例3: 新住民Cさんの場合

「まだ地域に詳しくないから発言を控えよう」ではなく、「移住者だからこそ感じる地域の魅力と違和感」を率直に話します。遠慮は不要。外からの新鮮な視点こそが、地域に新しい気づきをもたらします。

3つの基本原則

  1. 素の自分になる: 社会的な役割という名の鎧を脱ぐ
  2. 本音で課題を見つめる: 空気を読まず、本質を読む
  3. 課題当事者になってみる: 評論家から「自分ごと」の実践者へ

3. 地域アゴラがもたらす8つのメリット

  1. 🤝 新しい「つながり」と「居場所」の創出
    関心やテーマを軸に集まることで、年齢や職業を超えたネットワークが広がります。
  2. ✨ 個人の「スキル」と「やりがい」の可視化
    普段の仕事や家庭では発揮できないスキルや情熱が地域で活かされます。
  3. 🌍 多様性の受容と社会的包摂
    U/Iターン者、外国人住民、若者など、多様な背景を持つ人々が自然に関わり合えます。
  4. 💡 地域課題解決の具体的なエンジン
    住民が課題を発見し、解決策を考え、実行する拠点となります。
  5. 📈 地域経済への好循環
    活動から新しい商品やサービスが生まれ、地域経済に新しい活力をもたらします。
  6. ❤️ シビックプライド(地域への誇りと愛着)の醸成
    自らの手で地域を良くする経験は、地域への誇りと愛着を育みます。
  7. 🌉 行政と住民の新しい協働関係
    住民が受け身の「受益者」から主体的な担い手へと変わります。
  8. 🏛️ 「言うだけ」から「自分ごと」へ − デモクラシーの深化
    一人ひとりが課題を自分ごととして捉え、解決まで関わる民主主義へ。

第2章:地域アゴラの組織構造

1. 「アメーバ・モデル」— 自律分散型の基礎単位

地域アゴラの基本構造は、従来のピラミッド型組織とは異なります。5〜7人程度の少人数グループ(アメーバ)を基礎単位とする、しなやかで自律的な生態系として設計されています。

なぜ「アメーバ」なのか

1. 本音の熟議を担保する最適規模

  • 心理的安全性: 互いに信頼し、本音で深く話せる規模は一般に5〜7人
  • 意思決定の迅速化: 少人数だから合意形成が速く、具体的行動へすばやく移れる

2. 自律性と機動性の最大化

  • 変幻自在: 地域の課題やメンバーの関心に応じて、目的や形を柔軟に変えられる
  • 分裂と増殖: 人数が増えたら自然に二手に分かれる(7人を超えたら分裂が目安)
  • 融合: 目的が近いアメーバ同士が一時的に合同してインパクトを高められる
  • 自然消滅: 役目を終えたらしがらみなく終了できる(完了=成功)

スチュワード(持ち回りの世話役)

アメーバには固定のリーダーは置きません。スチュワード(場の世話役)を持ち回りにします。

  • 役割: 場づくり、時間配分、軽いファシリ、記録の依頼、外部との橋渡し
  • 任期: 1回ごと(または最長1か月)で交代
  • 権限: 段取りと安全の担保まで。合意は全員でつくる

2. 集合体としての「地域アゴラ」の役割

地域アゴラ本体は、アメーバを上から管理する「本部」ではありません。アメーバが生まれ、育ち、自由につながるためのプラットフォームです。

主な機能

  1. 出会いの場(マッチング): 仲間を見つけ、新しいアメーバを組成する交流の場
  2. 共有リソース: 会場・オンラインツール・ノウハウ・備品などを共同で使える仕組み
  3. ショーケース/ブリッジ: 各アメーバの活動を可視化し、地域内外とつなぐ
  4. 緩やかなガバナンス: 理念の共有と最低限の共通ルール

3. デジタルツールの活用(ITが苦手でも大丈夫)

地域アゴラでは、遠く離れた場所からも参加できるよう、オンラインツールを活用します。

例1: LINEグループ

各アメーバごとに作成。普段から使っているLINEなら、誰でもすぐ参加できます。

例2: Zoomでのオンライン対話

物理的に集まれない時も、顔を見ながら対話できます。操作が不安な人には、メンバーがサポートします。

例3: Googleドキュメントでの共同編集

活動記録を全員で同時に書き込めます。「誰が何を書いたか」が分かるので、透明性も保てます。

デジタル・ネットワークの3つの役割

  1. アメーバ間の「意思疎通」を最大化
    アメーバごとの専用チャンネル、テーマ横断の共有チャンネル、スキル・ディレクトリなど
  2. 集合的な「意思決定」を支える
    提案 → 熟議 → 合意/投票 をオンラインで運用。各アメーバの結論を可視化
  3. 非同期・非同地の参加を実現
    時間や場所の制約を超えて関われる。透明性と記録性を確保

第3章:思想的背景とルーツ

1. 近代社会の光と影

近代社会は、デカルトの主客二分論に基づく自然科学の発展によって大きな繁栄を遂げました。自然を「客体」として「主体」である人間が分析・支配することで、医療、工学、通信など、あらゆる分野で目覚ましい進歩を実現しました。

しかしその裏で、この二元論的な世界観は、人間を「孤立した個人」として社会から切り離し、制度やテクノロジーに依存する「管理社会」を生み出してきました。

近代社会が失ったもの:

  • 人と人の生きた関係性
  • 共同体の中での「居場所」の感覚
  • 互いに支え合う相互依存の知恵
  • 「我々」という集合的アイデンティティ

現代のSNSは、一見すると人々をつないでいるように見えますが、実際には表層的な「いいね」の交換に終始し、むしろ孤立を深めている側面があります。

2. 西谷啓治:「空」の思想と相互依存

地域アゴラは、京都学派の哲学者西谷啓治(1900-1990)の思想に深く共鳴しています。

西谷は、西洋近代の「主客二元論」を批判し、東洋思想の「空(くう)」の概念を現代に蘇らせました。

「空」とは何か

空とは「何もない」という虚無ではありません。むしろ、すべてが関係性の中で成り立っているという世界観です。

  • すべてのものは、他のすべてのものとつながり、互いを成り立たせあっています。
  • この根源的な関係性を「回互性」と言います。
  • そのため、私という存在も、独立して存在するのではなく、あなたや、私を取り巻くあらゆるものとの関係性の中でのみ成り立っています。
  • 「私」と「あなた」の境界も固定的ではなく、常にお互いに浸透し合っているのです。

地域アゴラへの示唆:

この思想は、地域アゴラの「素の自分」概念の哲学的基盤となっています。肩書や役割という「鎧」は、近代的な「個人」という幻想の産物。素の自分とは、関係性の中で生まれる「本来の自己」です。

3. ホワイトヘッド:プロセス哲学と生成の世界

イギリスの哲学者アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド(1861-1947)は、「存在」ではなく「生成(becoming)」を世界の本質と捉えました。

プロセス哲学の核心

  • 世界は固定的な「もの」の集合ではなく、絶えず生成し変化する「出来事」の連続
  • すべての存在は、他の存在からの抱握と感受によって常に生成される
  • 未来は決定されておらず、常に創造的に生成していく

地域アゴラへの示唆:

地域アゴラの「アメーバ・モデル」は、まさにホワイトヘッドのプロセス哲学の具現化です。アメーバは固定的な「組織」ではなく、絶えず生成・分裂・融合する「プロセス」なのです。

4. その他の思想家たち

「和」の再解釈:聖徳太子から現代へ

聖徳太子の「和をもって貴しとなす」(十七条憲法第一条)は、しばしば「波風を立てるな」という同調圧力の根拠として誤用されてきました。

しかし、原文を読み解くと、まったく異なる意味が浮かび上がります。これは「対立を避けよ」ではなく、「異なる意見を持つ者同士が、対話を通じて和を創り出せ」という積極的なメッセージです。

ハンナ・アーレント:「活動」と「公共空間」

政治哲学者ハンナ・アーレント(1906-1975)は、人間の営みを3つに分類しました:

  1. 労働(labor): 生命維持のための活動(食事、睡眠など)
  2. 仕事(work): 永続的なものを作る活動(芸術、建築など)
  3. 活動(action): 他者と共に語り、行為する政治的活動

アーレントは、近代社会が「労働」に偏重し、「活動」を失ったと批判しました。地域アゴラは、アーレントの言う「公共空間」そのものです。

マーティン・ブーバー:「我と汝」の対話哲学

ユダヤ系哲学者マーティン・ブーバー(1878-1965)は、人間関係を2種類に区別しました:

  • 「我-それ(I-It)」の関係: 他者を「もの」「手段」として扱う関係
  • 「我-汝(I-Thou)」の関係: 他者を「人格」として、全存在で向き合う関係

地域アゴラが目指すのは、「我-汝」の関係です。「素の自分」とは、全存在で他者と向き合う姿勢なのです。

思想の統合:地域アゴラの哲学的基盤

思想家 核心概念 地域アゴラへの応用
西谷啓治 空・相互依存 「素の自分」の哲学的基盤
ホワイトヘッド プロセス・生成 アメーバ・モデルの理論的根拠
聖徳太子 対話による合意形成の伝統
アーレント 活動・公共空間 民主主義の実践の場
ブーバー 我-汝の対話 素の自分で向き合う関係性

地域アゴラの哲学的メッセージ:

私たちは、孤立した個人ではない。関係性の中で生かされ、関係性の中で自己を見出す存在である。だからこそ、対話の場が必要であり、共に創る実践が不可欠なのだ。

さらに深く学びたい方へ

推薦図書:

  1. 西谷啓治『宗教とは何か』(創文社)
  2. ホワイトヘッド『過程と実在』(松籟社)
  3. ハンナ・アーレント『人間の条件』(ちくま学芸文庫)
  4. マーティン・ブーバー『我と汝』(岩波文庫)
  5. 内山節『共同体の基礎理論』(農文協)

第4章:大阪・関西万博 地域アゴラ実験室

⚠️ この実験は2025年の万博期間限定の取り組みです

趣旨

大阪・関西万博(2025)を、地域アゴラの考え方を体感できる実験の場として位置づけます。

万博という非日常的な場を活用し、地域アゴラの核心である「0→0.5」(他者から共感へ)のプロセスを、全国から集まる参加者と共に実験的に体験します。

ここで得た「作法」を、参加者が各地域に持ち帰り、それぞれの地域アゴラ立ち上げに活かすことを目指しています。

1. 実験の焦点:「0 から 0.5」をつくる

多くのコミュニティづくりは、いきなり「1(共同行動)」に向かいがちです。しかし最も繊細で、実は決定的に大事なのは、その手前の「0(他者)→0.5("この人たちとなら何かできるかもしれない"という感覚)」を生み出すこと。

実験室は、この"中間の手触り"に徹底してフォーカスします。

  • 「0→0.5」への集中: 目的も役割も決めず、まずは素の自分で向き合い、共鳴の火種を見つける
  • 心理的安全性の実体験: 安心の前提がある場でこそ、本音が生まれ、創造性が立ち上がる
  • 「余韻」の設計: 共同行動の直前であえて止め、高まったエネルギーを地域に持ち帰る
  • 現実の縮図を扱う: 「知り合い3人+初対面2人」など、地域で実際に起きる人間関係の温度差を前提に進める

2. 起爆剤としての本質:抗体と作法を持つ「媒介者」を生む

実験室がめざすのは「仲良し5人組」ではありません。

社会の慣性(形式主義・遠慮・役割固定)に対する「抗体」と、対話と実践の「新しい作法」を身につけた、5人の"変革のキャリア(媒介者)"です。

参加者は地域に戻り、無意識のふるまいの変化を通じて空気を変える微小な核となります。小さな変化が周囲に伝播し、硬直したシステムが毛細血管からほぐれていきます。

3つの「心の武装解除」訓練

  1. 素の自分になる
    役職・肩書・専門性を一旦はずし、フラットに話す体験。形式主義・権威主義に対する最良のワクチン。
  2. 本音で課題を見つめる
    忖度ではなく本質を見る姿勢を養う。「本当に問題なのは何か?」を問い続ける思考体力を鍛える。
  3. 課題当事者になってみる
    「自分がその渦中にいたら?」という当事者意識のスイッチを入れる。評論家で終わらず、小さく試す行動者へ。

成功の条件と対策

  • 課題1: あくまで参加者の対話サポートに徹するスチュワード
    対策: 場の心理的安全・適切な時間配分・参加度の調整役に徹する
  • 課題2: 「共同行動の直前」で止める
    対策: 「行動は地元で」と合意し、最後は持ち帰りへ誘導
  • 課題3: 「余韻」を実践につなげるブリッジ不足
    対策: 終了時に地域で「誰に何を話してみようか」個別に表明
  • 課題4: グループダイナミクスの偏り
    対策: 指名の仕方・順番・ペア/3人組ワークを織り交ぜ、声の小さい人にも自然に発言機会が回る気配り

一文サマリー:

万博実験室は、企画や合意を「その場で作る場所」ではありません。人と人が素で出会い、本音の対話が立ち上がる"0→0.5"の作法を体で覚え、地域へ持ち帰るための場です。そこから社会は、毛細血管から確かに変わり始めます。

第5章:地域での実践ガイド

地域アゴラの始め方 6ステップ

ステップ1: 仲間を集める(最初の3〜5人)

重要なポイント:

  • 「何か面白いことをやろう」だけでは人は集まらない
  • 「なぜ、今、私たちが、これをやるのか」という共感を呼ぶ具体的で切実な目的を言語化
  • 例: 「消えそうな祭りを子どもたちの代まで残したい」「孤立した子育て世帯に居場所を作りたい」

最初の仲間の見つけ方:

  • 既存のコミュニティ(気のあうサークル、PTA、自治会、など)で気軽に無理なく声をかけてみる
  • SNSで想いを発信し、共感する人を募る
  • 地域の既存イベントに参加し、志の近い人と出会う

ステップ2: 場所を確保する

物理的な場所:

  • 公民館、集会所、カフェなどの既存施設を活用
  • 定期的に集まれる場所があると活動が継続しやすい

オンライン空間:

  • Slack、LINEオープンチャットなどのツールを活用
  • 物理的な制約を超えて、いつでも対話できる環境を整える

ステップ3: 最初の対話を始める

第1回の対話のテーマ例:

  1. 「この地域で、私たちが本当に大切にしたいものは何か?」
  2. 「この地域で、今、困っている人はどんな人か?」
  3. 「私たち一人ひとりができることは何か?」

対話のルール:

  • 肩書や立場を脇に置き、「素の自分」で話す
  • 他人の意見を否定しない
  • 「正解」を出すことより、「問い」を深めることを大切にする

ステップ4: 最初のアメーバ(プロジェクトチーム)を作る

アメーバの作り方:

  • 何気ない対話の中で「これをやってみたい」という具体的なアイデアが出たら、それに関心のある5〜7人でアメーバを組成
  • 最初から完璧な計画は不要。「とりあえず3ヶ月やってみる」という軽やかさが重要
  • 定期的に(週1回〜月1回)集まり、進捗を共有し、次のアクションを決める

ステップ5: 活動を記録・共有する

なぜ記録が重要か:

  • 後から参加する人が経緯を理解できる
  • 活動の振り返りと改善に役立つ
  • 外部への説明や支援の獲得に使える

記録の方法:

  • デジタルツール(Notion、Google Docs、ブログなど)で議事録や活動報告を残す
  • 写真や動画で活動の様子を記録
  • SNSで定期的に発信し、活動の可視化を図る

ステップ6: ゆるやかに拡大する

新しいメンバーの迎え方:

  • 活動報告会やオープンな対話の場を定期的に開催
  • 新しい人が意見を言いやすい雰囲気づくり
  • 最初から「コアメンバー」と「新参者」を区別しない

新しいアメーバの誕生:

  • 活動が広がる中で、新しい課題や関心が生まれたら、それに応じて新しいアメーバを組成
  • アメーバ間の情報共有を密にし、協力できるところは協力する

実践事例(イメージ) - こんな変化が生まれてきます

事例1: 長野県A市「子育てアメーバ」

孤立していた3人の母親が対話を始めたことから、半年で20家族が参加する「週1回の居場所」に発展。「ちょっと子どもを見てもらえる」関係が生まれ、親たちの表情が明るくなりました。

行政の子育て支援課からも注目され、協働事業として公民館の一角を常設スペースとして利用できるようになりました。

参加者の声:
「『自分だけじゃなかった』と思えたことが何より救いでした。今では気軽に『今日しんどいから、30分だけ見ててもらえる?』って言える仲間がいます」

事例2: 福岡県B町「空き家活用アメーバ」

「あの空き家が気になる」という雑談から始まり、所有者と移住希望者をつなぐプラットフォームを構築。

5軒の空き家が地域交流拠点として再生され、そのうち1軒は移住者が運営するカフェ兼コワーキングスペースに。週末には都市部から人が訪れる「関係人口」の拠点にもなっています。

参加者の声:
「最初は『誰かがやってくれたらいいのに』と思っていました。でも対話を重ねるうち、『自分たちでやってみよう』に変わった。行動してみると、意外と協力してくれる人がいるんですね」

事例3: 北海道C村「高齢者見守りアメーバ」

「隣のおばあちゃんが心配」という一言から、ゆるやかな見守りネットワークが誕生。

LINEグループで「今日、◯◯さんとこに寄ったよ」「元気そうだった」と気軽に報告し合う仕組みを作りました。過度な負担なく、自然体で見守りを継続。孤立死ゼロを3年間継続中です。

参加者の声:
「『見守り』というと重たい感じがしますが、これは本当に気軽。散歩のついでに声をかけるだけ。お互いに『ありがとう』が言い合える関係が心地いいです」

📝 あなたの地域の事例もぜひお聞かせください
実践事例を共有いただける方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。

第6章:よくある質問(FAQ)

Q1: 忙しくて時間があまり取れないのですが、それでも参加できますか?

A: はい、もちろんです。地域アゴラは、参加者それぞれが無理のない範囲で関わることを大切にしています。

月に1回の対話の場に参加するだけでも十分です。デジタルツールを活用すれば、自分の都合の良い時間に非同期で参加することもできます。

「毎回出なければ」というプレッシャーは一切ありません。来られる時に来る、関われる時に関わる。そんな気軽さが、かえって長続きの秘訣です。

Q2: 地域アゴラを始めたいのですが、最初の一歩が踏み出せません

A: 完璧な準備は必要ありません。まずは:

  1. 信頼できる友人・知人2〜3人に声をかけて、「地域について語る会」を開いてみる
  2. 「何をするか」を決めるのではなく、「何が気になるか」「何が大切か」を語り合う
  3. その中から自然に「これをやってみたい」が生まれるのを待つ
  4. 小さく始めて、失敗を恐れずに試行錯誤する

最初の対話のテーマに迷ったら:

  • 「この地域で好きな場所はどこ? その理由は?」
  • 「10年後、この地域がどうなっていたら嬉しい?」
  • 「最近、地域で気になったことは?」

こんな軽い問いから始めてみてください。

Q3: 地域アゴラに参加するのに、何か資格や条件は必要ですか?

A: 一切必要ありません。

年齢、職業、居住年数などに関わらず、「地域を良くしたい」「誰かとつながりたい」という想いがあれば、誰でも参加できます。専門的なスキルも不要です。

大切なのは「素の自分」で参加する気持ちです。

  • 「私は何もできない」と思っている方も歓迎です
  • 引っ越してきたばかりの方も歓迎です
  • 人見知りで口下手だという方も歓迎です
  • 若者も、高齢者も、外国人も、みんな歓迎です

あなたの存在そのものが、地域の多様性を豊かにします。

Q4: 既存の自治会や町内会とは何が違うのですか?

A: 最も大きな違いは、「肩書や役割を脱いで、素の自分で参加できる」点です。

既存の組織では、会長や役員といった役割が固定化しがちですが、地域アゴラでは全員がフラットな関係で、自分の関心に基づいて自由にプロジェクト(アメーバ)を立ち上げたり参加したりできます。

項目 従来の自治会・町内会 地域アゴラ
参加の形 世帯単位・義務的 個人単位・自発的
リーダー 固定(会長など) 持ち回り(スチュワード)
意思決定 多数決・上意下達 対話による合意形成
活動範囲 伝統行事・連絡事項 自由(関心に基づく)
雰囲気 義務・責任 自由・創造

重要: 地域アゴラは既存組織と対立するのではなく、連携・補完し合う関係を目指します。両方に参加している人が「橋渡し役」となることで、地域全体の活性化につながります。

Q5: 活動資金はどのように確保するのですか?

A: 以下のような方法があります:

1. 会費・カンパ(最も基本的な方法)

  • 参加者からの自発的なカンパ(月100〜500円程度でOK)
  • 「払える人が、払える分だけ」の精神

2. 公的助成金・補助金

  • 自治体の市民活動助成金
  • コミュニティ財団の助成
  • 地域振興関連の補助金

3. 民間からの支援

  • 地域の企業や個人からの寄付
  • クラウドファンディング
  • 企業版ふるさと納税の活用

4. 自主事業収益

  • 活動から生まれた商品やサービスの販売
  • イベント参加費
  • ワークショップの受講料

重要な原則: 会計を完全に透明化し、全員が収支を確認できるようにすることです。定期的に収支報告を行い、「お金の流れが見える」状態を保ちます。

初期段階では、ほとんどお金をかけずに始められます。公民館などの無料施設とLINEなどの無料ツールがあれば、十分スタートできます。

Q6: 行政との関係はどうすればよいですか?

A: 行政は「上から指示する存在」ではなく、「地域の担い手の一員」として水平な関係を築くことを目指します。

初期段階:

  • 活動内容を定期的に報告し、理解を得る
  • 「応援してください」ではなく「一緒にやりましょう」のスタンス

連携段階:

  • 助成金や場所の提供など、協力できる部分を探る
  • 行政職員も一市民として対話の場に参加してもらう
  • 行政が「できないこと」を住民が補完する関係

協働段階:

  • 住民発の提案を行政が政策に取り入れる
  • 行政と住民が対等なパートナーとして事業を共創

大切な姿勢:

  • 行政に「要求する」のではなく、「提案する」
  • 行政を「批判する」のではなく、「対話する」
  • 行政に「依存する」のではなく、「協力する」

実際、多くの自治体職員は「住民と本音で対話したい」と思っています。地域アゴラは、その場を提供できます。

Q7: 意見の対立が起きたらどうすればいいですか?

A: 対立は悪いことではありません。多様な意見があるからこそ、より良い解決策が生まれます。

大切なのは:

1. 「人」ではなく「課題」に焦点を当てる

  • 「Aさんの意見 vs Bさんの意見」ではなく
  • 「どうすれば課題を解決できるか」を全員で考える

2. 互いの意見の背景にある想いや価値観を理解しようとする

  • 「なぜそう思うのか」を丁寧に聴く
  • 「その人なりの正しさ」があることを認める

3. 多数決で決めるのではなく、全員が納得できる第三の道を探る

  • AでもBでもない、Cという新しい案が生まれることも
  • 時間をかけてでも、合意を目指す

4. どうしても合意できない場合は、両方の案を小規模に試してみる

  • 「実験」として両方やってみる
  • 結果を見て、改めて判断する

実は、対立を乗り越えたコミュニティは、より強固な信頼関係を築けます。

Q8: 活動がマンネリ化してきたらどうすればいいですか?

A: マンネリは、ある意味「安定」の証でもあります。でも、新鮮さを取り戻したいなら:

1. 定期的な振り返り会を開く(年1〜2回)

  • 「何が良かったか」「何を変えたいか」を率直に共有
  • 「そもそも、なぜ始めたんだっけ?」と原点に戻る

2. 新しいメンバーを積極的に迎え入れる

  • 新鮮な視点が、停滞を打破する
  • 「初心者の質問」が、当たり前を見直すきっかけに

3. 目的を達成したプロジェクトは勇気をもって「終了」する

  • 終わることは失敗ではなく、成功
  • 役目を終えたら、新しいプロジェクトを始める

4. スチュワード(世話役)を定期的に交代する

  • 新しいアイデアとやり方を取り入れる
  • 「同じ人がずっとやる」を避ける

5. 他の地域アゴラと交流する

  • オンラインでの情報交換
  • 他地域への訪問
  • 合同イベントの開催

6. 思い切って「休む」

  • 無理に続けず、一時休止も選択肢
  • エネルギーが戻ったら、再開すればいい
Q9: オンラインとリアルの対話、どちらを優先すべきですか?

A: どちらかではなく、両方を使い分けるのが理想です。

リアルの対話の強み:

  • 表情、声のトーン、空気感が伝わる
  • 偶発的な出会いや会話が生まれる
  • 「場」を共有する一体感
  • 信頼関係の構築が早い

オンライン対話の強み:

  • 時間と場所の制約がない
  • 移動の負担がない
  • 議事録が残りやすい
  • 遠方の人も参加できる

おすすめの使い分け:

場面 推奨形式
初対面の顔合わせ リアル
定例の報告・連絡 オンライン
深い対話が必要な時 リアル
情報共有 オンライン
対立の解消 リアル
日常的なやりとり オンライン
Q10: 地域に批判的な人や、反対する人がいたらどうすればいいですか?

A: 批判や反対は、実は「関心の表れ」です。無関心よりもずっと良いサインです。

対応のポイント:

1. まず、話を聴く

  • 「なぜ批判的なのか」「何が心配なのか」を丁寧に聴く
  • 否定せず、受け止める

2. 批判の背景にある「想い」を理解する

  • 多くの場合、「地域を良くしたい」という想いは同じ
  • アプローチが違うだけ

3. 実際の活動を見てもらう

  • 「怪しい」「よく分からない」が批判の理由なら
  • オープンな場に招待し、透明性を示す

4. 無理に説得しない

  • 「分かってもらえなくても構わない」の余裕
  • 結果で示す方が説得力がある

5. 批判者を「敵」にしない

  • いつか協力者になる可能性を残す
  • 対話の扉は常に開けておく

実例: ある地域で、最初「若者が勝手なことを始めた」と批判していた高齢者が、1年後には活動の最大の応援者になりました。きっかけは、若者たちが高齢者の話を丁寧に聴き続けたことでした。

批判は、成長のチャンスです。

付録:詳細な地域課題一覧

第1章で簡潔に紹介した課題の詳細版です。カテゴリー別にアコーディオンで整理しています。

防災・災害時の脆弱性
  • 避難所運営の混乱: 信頼関係や話し合いの経験がないと、合意形成さえ難しい
  • 情報格差: 高齢者・障がい者・外国人などに必要な支援が届かない
  • 災害関連孤独死: 避難生活の長期化で体調を崩し、誰にも気づかれず命を落とす
  • 古い体質のコミュニティの限界: 上下関係や慣習に縛られ、柔軟な判断ができない
防犯・生活安全の悪化
  • 子どもの安全低下: 地域の見守り機能が弱まり、安心して暮らせなくなる
  • 孤立のサインを見逃す: ゴミ屋敷などの危険信号に誰も気づかず、対応できない
  • 特殊詐欺の被害拡大: 誰でも狙われるが、孤立した高齢者は相談できず被害を防ぎにくい
高齢者・社会的弱者の孤立
  • 孤独死の増加: 誰にも看取られず亡くなるケースが後を絶たない
  • 日常生活の困難: ゴミ出しや買い物など、ささいな困りごとを頼める人がいない
子育て世代の孤立と負担増
  • 「孤育て」の深刻化: 親が一人で育児の悩みや負担を抱え込む
  • 育児ノイローゼ・児童虐待のリスク: 「ちょっと子どもを見てもらう」ができない
生活環境の悪化
  • 空き家の増加: 管理不全で防犯や景観の問題を引き起こす
  • 商店街の衰退: シャッター通り化が進み、買い物難民が生まれる
  • 公共交通の縮小・廃止: 移動手段が限られ、特に高齢者の生活に打撃となる
健康・福祉の悪循環
  • メンタルヘルスの悪化: 孤立や不安から心の病を抱える人が増える
  • 支え合いの不足: 病気や要介護のとき、気軽に頼れる人がいない
  • 地域医療の負担増: 軽度の困りごとも医療・介護に集中し、制度がパンクする
若者の流出と人材不足
  • 地域に残る魅力の減少: 学びや挑戦の場が乏しく、若者が地域を離れる
  • 担い手不在: 消防団や自治活動、ボランティアなどを継ぐ人がいなくなる
経済的な衰退
経済的な衰退
  • 地域内経済の縮小: 地元でお金が回らず、商店やサービス業がさらに衰退
  • 働く場の喪失: 地域での仕事が減り、若者や現役世代が暮らしにくくなる
伝統文化・地域アイデンティティの喪失
  • 祭りや伝統行事の担い手不足: 文化の継承が難しくなる
  • 地域独自の文化の消滅: 誇りや一体感が失われ、地域が無機質化する
公共空間・合意形成の崩壊
  • 公園や共有地の荒廃と活用不足: 行政の管理だけでは十分に生かされず、地域での関わりがないと放置されてしまう
  • ごみの不法投棄やポイ捨ての増加: 空き地や道路にゴミが捨てられ、地域の環境や景観を悪化させる
  • 近隣トラブルの深刻化: 保育園建設を巡るNIMBY問題などで合意形成が困難
情報と意見交換の断絶
  • デジタル格差の拡大: ITに疎い人が情報から取り残される
  • 対話の不足: 地域課題をめぐる意見交換の場がなく、行政任せ・他人任せになる

地域に信頼のある対話の場をつくることで、こうした断絶を乗り越えることができます。このため地域アゴラが必要です。

お問い合わせ・参加申し込み

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地域アゴラは、一人ひとりの「素の自分」から始まる、新しい地域づくりの実践です。
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最終更新日:2025年9月28日|Version 1.0

地域アゴラの背景を貫く問い(序章)

地域アゴラの背景を貫く問い(序章)

以下は私のつれづれなるままの思索の未定稿アルファ版です、今後さらに改良・修正して行く予定です。

0.1 主客二元論の功罪

17世紀、ヨーロッパは激動の時代にあった。三十年戦争が宗教的確信の対立を血で染め、伝統的権威は揺らいでいた。何を信じればよいのか。確実なものは何か。この混沌の中で、デカルトは一つの答えを示した。

0.1.1 デカルトの遺産:功

デカルトの「我思う、ゆえに我あり」は、近代世界の基礎を築いた。主体(精神)と客体(物質)を明確に分離することで、客観的な科学が可能になった。研究者は対象を「外」から観察し、測定し、法則を発見できる。この方法論が、ニュートン力学、産業革命、現代科学技術の驚異的発展をもたらした。

同時に、個人の尊厳と自由の哲学的基礎も確立された。各人は独立した理性的主体として、自らの判断で生きる権利を持つ。もっとも、デカルト自身は人権思想や民主主義を直接論じたわけではなく、彼の主眼は「確実な知の基礎」を打ち立てることにあった。そこから展開したのが「合理主義」であり、伝統や権威よりも理性を信頼し、論証によって世界や社会を理解しようとする姿勢である。この合理主義の精神は「なぜ人は権威や伝統に従うのか」という問いを呼び起こし、社会や政治を理性によって再構築しようとする啓蒙思想を生んだ。人権や自由の思想は、この流れの中でロックやルソーらによって体系化されていった。

0.1.2 デカルトの遺産:罪

しかし、この主客二元論は深刻な代償を伴った。

第一に、人間の孤立である。「私」は独立した主体として、他者や世界から切り離された。「自分は自分、他人は他人」という意識が当然となり、共同体への帰属意識は衰退した。現代社会の無関心、孤独、つながりの喪失は、この哲学的前提に根ざしている。

第二に、民主主義の機能不全である。投票は個人の選好の集計に過ぎず、対話や熟議の場が失われた。政治は利害の対立となり、分断が深まる。代議制民主主義は形式的には機能しているが、市民の実感からは乖離している。

第三に、環境破壊である。自然は「客体」として対象化され、利用と支配の対象となった。人間と自然の相互依存関係は忘却され、持続可能性が危機に瀕している。

思想家イヴァン・イリイチは、このデカルト的な主客分離が、いかに私たちの生活を蝕む「制度」として社会に埋め込まれているかを暴き出した。彼によれば、近代の学校や医療のような専門的制度は、人間を助けるという本来の目的を超えて肥大化し、逆に人々から自律的に学び、健康に生きる力を奪う「逆生産的」なものと化している。デカルトの思想的遺産は、私たちの魂だけでなく、社会の仕組みそのものを深く蝕んでいるのである。

0.1.3 二つの問題

本書は、デカルト的主客二元論がもたらした二つの根本問題に取り組む。

社会的問題: いかにして孤立を超え、関係性を回復し、機能する民主主義を再構築するか。これは共同体の再生、地域の活性化、政治参加の問題である。ここで理論的支柱となるのが、ジョン・デューイハンナ・アーレントユルゲン・ハーバーマスといった思想家たちだ。彼らは、民主主義を単なる投票制度ではなく、市民が対話を通じて公共的な世界を共に創り上げていく「生活様式」や「活動」として捉え直した。本書が目指す「地域アゴラ」は、まさに彼らの思想的遺産の上に構想される。

実存的問題: 個人の魂の救済という、より根源的な問いである。死の不安、苦しみの意味、人生の目的—これらは理論的説明を超えた実存的次元に属する。デカルト的個人は、この問いに答える資源を持たない。宗教的な支えが後退した現代において、私たちはどこに立つのか。

重要なのは、これらが特定個人の私的経験にとどまらず、誰もが直面する普遍的な人間の問いだということである。そして、社会的問題と実存的問題は、決して別々に存在しているのではなく、互いに深く結びついている。孤立や分断といった社会的な問題は、人間の根底にある不安を強める。友や仲間を失い、支えのない状況に置かれれば、「自分の人生には意味があるのか」「苦しみを分ち合う相手はいるのか」といった実存的な問いが鋭く突きつけられるからである。

逆に、強い実存的な不安を抱えている人は、社会に関わる余裕を失ってしまう。「どうせ死ぬのだから何をしても意味がない」「誰にも理解されない」と感じれば、地域や公共の活動に参加しようという気持ちは自然に弱まってしまう。心が不安に押しつぶされているとき、人は自分の殻に閉じこもり、他者との関わりを避ける傾向があるのだ。

こうして「孤立が不安を生み、不安がさらに孤立を深める」という悪循環が生まれる。だからこそ、社会的な問題と実存的な問題は切り離さず、同時に取り組まなければならないのである。

0.2 統一的枠組み:関係関数

本書は、これらの問題に応答するために、統一的な枠組みを提示する。それが「関係関数」という比喩である。

y(t) = f(x₁, x₂, t)

ここで:

  • y(t): 現在の自己
  • x₁: 外部からのインプット(他者、環境)
  • x₂: 過去の自己(x₂ = y(t-1))
  • f: 変換様式(変貌自在)
  • t: 時間

この式は、人間を「関係性の中で生成するプロセス」として捉える。私たちは孤立した実体ではなく、他者(x₁)と過去の自己(x₂)を取り込みながら、絶えず新しい自己(y)を生成している。

デカルトの特殊ケース: デカルトのcogitoは、この一般形の縮退である。x₁(外部)を遮断し、x₂(過去)を固定化することで、y = cogitoという変化しない主体を作り出した。これは極めて特殊で、人為的な状態である。

ホワイトヘッドの一般ケース: ホワイトヘッドのプロセス哲学は、この一般形を存在論的に基礎づける。すべての存在は、過去を「抱握(prehension)」し、新しい瞬間を生成する。人間も例外ではない。

この関係関数という枠組みが、本書全体を貫く。第1部から第7部まで、すべてはこの式の意味を深め、展開し、社会に実装する試みである。

0.3 三次元と四次元

しかし、関係関数だけでは不十分である。本書のもう一つの核心概念が、三次元と四次元の区別である。

0.3.1 三次元とは何か

三次元とは、y = f(x)という構造が成立する次元である。ここでは:

  • 主体(y)と客体(x)が区別される
  • 関係(f)が記述可能
  • 観察者は「外」に立って、この関係を対象化できる

関係性を客観的に分析するこうしたアプローチは、20世紀の思想において大きな前進だった。例えば、万物は過去を抱き込みながら生成するとしたプロセス哲学者のホワイトヘッド、あるいは人間関係をフィードバックのあるシステムとして捉えた思想家のベイトソンがいる。

中でも、哲学者のチャールズ・テイラーが提唱した「承認論」は、この三次元の理論の到達点の一つと言えるだろう。彼は、私たちの自己意識やアイデンティティが、他者から「承認」されるという対話的な関係性の中でしか成り立たないことを論証した。これは、デカルト的な孤立した個人という前提を根底から覆し、豊かな関係性を取り戻すための、極めて重要な理論的ツールである。

しかし、テイラーの理論は同時に、三次元の限界をも示唆している。彼の理論を「理解」することと、実際に他者を心から「承認する」ことの間には、深い溝がある。後者は、まさに理論を超えた実存的な跳躍(四次元)を必要とするからだ。

0.3.1 三次元とは何か:立体図を眺める視点(理解を深めるために)

三次元とは、y = f(x)という構造が成立する次元である。

比喩としての立体図: 三次元の理論は、複雑な関係性の「立体図」である。単純な平面図(二次元)ではなく、相互に影響し合う要素の精緻な構造を描く。ホワイトヘッドの抱握理論、ベイトソンのシステム論は、この立体図を驚くほど詳細に描き出した。

しかし重要なのは: どれほど精巧な立体図であっても、私たちはそれを「外から眺めている」。

デカルトも立体図を眺めた: デカルトの「我思う、ゆえに我あり」は、まさに世界を外から眺める展望台を確立した。彼の立体図はまだ白地図に近く、関係性は描き込まれていない。しかし「眺める」という構造は同じである。

ホワイトヘッドの前進: ホワイトヘッドは、「我自身が関係性の産物である」ことを示した。これは重要な前進である。我は孤立していない。

しかし微細な分離が残る: その理解をしている「私」は、依然として立体図を眺めている。「分析する私」と「分析される(関係性の中にある)我」という、微細な主客分離が残る。まだ自分と他を何がしか区別している。

0.3.2 三次元の限界

しかし、三次元には二つの限界がある。

社会的限界: 三次元の理論は、関係性を「説明」できる。しかし、人々を「動かす」ことは難しい。ホワイトヘッドを理解しても、それだけで利他的になるわけではない。テイラーの承認理論を学んでも、実際に他者を承認できるとは限らない。理論と実践の間には、深い溝がある。

地域アゴラで「素の人間になる」ためには、単なる理論的理解を超えた何かが必要である。それが四次元である。

実存的限界: より根源的には、三次元の理論は実存的問いに答えられない。

手術台で激痛に襲われたとき、ホワイトヘッドの理論は何も助けにならない。「あなたの痛みは過去の抱握によって構成されています」と説明されても、痛みは消えない。般若心経も浮かばない。頭の中にあるのは赤い血の色だけである。

死の不安、苦しみの意味、人生の目的—これらの実存的問いは、対象化可能な理論(三次元)の彼方にある。ここで必要なのは、理論ではなく実存的転換である。それが四次元である。

0.3.3 四次元とは何か

四次元とは、y = f(x)という構造自体が相対化される次元である。ここでは:

  • 主体と客体の区別が溶解する
  • 関係を「外」から観察する立場がない
  • 観察者自身も関係の中にある
  • 対象化不可能

日本の哲学者の西谷啓治が探求した「空」、ユダヤ教の思想家マルティン・ブーバーが示した「我-汝」の関係、そして米国の哲学者ミルトン・メイヤロフが『ケアの本質』で分析した「ケア」の関係──これらはすべて、異なる文化的背景から、この四次元という同じ地平を指し示している。

西谷の空: 自我(y)も、他者(x)も、関係(f)も、すべて空である。実体はない。しかし、この空の自覚において、真の自由と関係性が開ける。これは対象化できない実存的転換である。

ブーバーの我-汝: 我-それの関係(三次元)では、私は相手を対象として扱う。しかし我-汝の関係(四次元)では、私と汝の境界が溶解する。全存在的な出会いが生じる。これも対象化できない。

メイヤロフのケア: ケアとは、相手を対象として管理・操作することではない。相手がその人自身であれるように、その成長のプロセスに寄り添い、関わっていくことである。この関係性もまた、外から分析できるものではなく、内側から生きられる体験である。

0.3.3 四次元とは何か:立体図の中に入る(理解を深めるために)

四次元とは、y = f(x)という構造自体が相対化される次元である。

立体図を眺めるのではなく、その中を歩む: 四次元において、私たちはもはや立体図を外から眺めていない。自分自身がその地形そのものであり、他者もその地形の一部である。

区別の消失: 「分析する私」も「分析される我」もない。主体と客体の区別が溶解する。ブーバーの「我-汝」において、私と汝の境界は消える。西谷の「空」において、自我も他者も空である。

説明不可能: これは理論的に説明できない。なぜなら、説明する主体が消えているからである。これは体験、実存的転換である。

「自分と他を何がしか区別している」状態を超える: 三次元では、どれほど関係性を理解しても、微細な区別は残る。四次元は、その最後の区別が手放される次元である。

0.3.4 なぜ四次元が必要か

四次元は、三次元の二つの限界に応答する。

社会的理由: 地域アゴラで「素の人間になる」ためには、社会的役割(肩書き、建前)という固定的な自己を空じる必要がある。これは理論的理解ではなく、実存的所作である。四次元的開きがなければ、真の対話は生まれない。

実存的理由: 個人の魂の救済—死、苦、意味の問い—は、三次元の理論では届かない。痛みの前で理論は沈黙する。しかし四次元において、痛みそのものが変容する可能性が開ける。これは説明ではなく、体験である。

重要なのは、これが神秘主義や特殊な宗教体験ではなく、人間存在の普遍的構造だということである。死を前にして、苦しみの中で、誰もが四次元に直面する。西谷とブーバーは、異なる伝統からこの普遍的次元を指し示した。

0.4 統合:空的関係性過程哲学

本書の中心的主張は、三次元と四次元は対立ではなく、統合されるべきだということである。

三次元なしには、社会制度を設計できない。地域アゴラの具体的ルール、順位付け投票の仕組み、アメーバの運営原則—これらはすべて三次元の理論的作業である。

しかし四次元なしには、これらの制度は魂のない形式に堕する。人々は参加しても、真の対話は生まれない。実存的深みがない。

逆に、四次元だけでは社会変革にならない。個人の悟りや神秘体験に留まり、孤立した個人の問題を超えられない。

空的関係性過程哲学は、両者を統合する。

  • 関係性過程(三次元): ホワイトヘッド、ベイトソン、テイラーの理論的貢献
  • 空的(四次元): 西谷、ブーバーの実存的深み

「空的」とは、三次元のモデルを構築しながら、それを絶対化しないということである。常に四次元に開かれている。理論(三次元)が実存(四次元)を誘い、実存が理論を書き換える。この二重螺旋構造が、本書の方法である。

本書は、第1-2部で三次元の理論を構築し、第3部で四次元への跳躍を遂げ、第4-5部でそれを社会制度(地域アゴラ)に展開し、第6-7部で実践と幸福論に至る。全体が、三次元と四次元の動的統合である。

0.5 収斂という謎

最後に、もう一つの謎がある。なぜ西谷啓治(仏教)とマルティン・ブーバー(ユダヤ神秘主義)は、異なる伝統から出発しながら、驚くほど似た境地に至ったのか。

これは偶然ではない。エックハルト(キリスト教)、ルーミー(イスラム)、荘子(道教)、不二一元論(ヒンドゥー)—すべての伝統に、同様の「四次元」への跳躍が見られる。

この収斂現象は、四次元が文化的構成物ではなく、人間存在の普遍的構造であることを示唆している。死、生、愛、信という極限経験において、すべての伝統が同じ限界に直面し、同じ跳躍を遂げる。

本書は、この収斂の謎を解明し、それが現代社会の再構築にどう寄与するかを示す。西谷とブーバーの収斂は、東洋と西洋の真の統合の可能性を示している。

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